Blue Bird の旅

北ドイツでの生活

くう、ねる

2022年の年明けから、本当に色んなことがありました。母の病気で急遽日本に帰らなければならず、ドイツとの生活と自分の人生と、なんだかめっちゃくちゃになったような気がしました。

もちろん日本の家族も大切だけれど、距離が離れていることによって色々な難しさが生まれました。今はドイツにいて、また11月に日本に帰ります。しばらくは短いスパンでの行き来を繰り返すことになりそうです。

大変なことが色々あって、どうしてこんなことになったんだろう?と絶望する日もありましたが、この経験によって学んだこともすごくありました。

まずは人生で大切なことを理解した気がします。それは「食べること、寝ること」です。それの上に全てが成り立っている。

私の母はうつ病で、ドイツに旅行した後位から体調を崩し始め、急性期には食べられない、寝れないが続き、体重もかなり落ちました。うつ病は精神というか脳の、病気ではありますが、それが身体全体に影響することもあるという点では、命に関わる病気です。

目の前で食べれない人、寝れない人の体調管理をして本当に肌身で感じたこと。それが当たり前ではありますが「食べること、寝ること」の重要性。身体を、生命を維持するために欠かせない毎日毎日のことなんだと身に染みたのです。

もちろん、これまでも睡眠、食事は大事だよね、程度には考えていました。でも普段当たり前に出来ることができなくなったら…。それは本当に難しいことです。

 

私のこれまでの人生は、なにかと仕事やらアクティビティで忙しく、私の思考は外向きで、自分なりに健康には気を遣っていましたが、どちらかというと二の次で、自分のやりたい事に向かって身体を酷使するような生活をしていました。若かったのでなんとか乗り切れていたのもあると思います。

でも母の姿を目の前にして、そして世話をする中で、ある日、ああ、人生の基本っていうのは「食べること、寝ること」なんだ。とようやくわかったのです。

そして、食べることにおいても、「何を食べるか?」ということ。うつ病を改善するために必要となる栄養素などについても勉強しました。そして色々学ぶ上で気づいたのは、結局、全て繋がってる…。

例えば、ダイエット、美容、妊活、健康維持。結局何をどう食べるか、もちろんエクササイズも重要ですが、日々、口に何を入れてるのか?ということに行きつきます。

もちろん神経質になりすぎるのも良くありませんが…タンパク質は?食物繊維は?ビタミン類は?どのくらい食べた?と考えるようになったのです。そして日々の買い物、何を料理するかって、とても大事だよな…と

うつ病は脳内のホルモンを作る材料がタンパク質…アミノ酸なのです。そして妊活も子供が体内で育つために必要なのがタンパク質。血液の素になる。そしてダイエット、美容もしかり。要するに、食べないで痩せるのではなく、しっかり栄養のあるものを食べて痩せましょうということなんです。

母はもちろん薬による治療もしています。でもそれだけで劇的には良くならない。体重が落ちてしまっているので、強い薬にも耐えらない。かと言って自然には良くならない。とにかくうつの症状で食事が取りにくい中でもなんとか食べてもらい体力つけてもらうしかない。

つまり、薬による治療、つまり病院での治療というのは対症療法的であるし、限界があって、あとは日々の生活の中でやってくしかないことの方が多い気がします。もちろん治療も続けていくつもりですが、手術をして病気の部分を取り除いて終わりということではないので、時間がかかる。

そのため、日本にいる時はとにかく、母の3食に気を遣ってました。もう、もはや私は母の食事の管理と服薬管理のためだけに存在してました。

始めは本当に辛かったのですが、ついに臨界点に到達し、私は人生でとても大切な事に向き合っているんだな!とふと思うようになり、何を食べるか?を考えるようになりました。

 

そして、母に対しては「ひとまず、しっかり食べて、薬の力であっても寝てくれるのであれば、それでいい。」と思うようになりました。つまり「くう、ねる」です。それさえできれば、ひとまず母の命はつながるんだと。

そうして生きる事に対する条件がかなり原点に近いところまで行った時に私自身も、すごく楽になったというか幸せになりました。

私もひとまず、色々あっても、食べること、寝ることができればそれでいい。そしてそれが出来る事に感謝する。そしてそういう日々の営みというのが本当に尊いというか…本質な気がしました。

もちろん、現代社会では食べるためにお金を稼がなきゃならない。でもやっぱり健康でなければ、難しい。しかしそういう事に気づかなければある日、仕事をする意味は逆転し、はじめは楽しさ、やりがいのためだったものが行き過ぎると、仕事が最優先、仕事に追われ、仕事での評価が1番重要になり、自分の生活をないがしろにしてのめり込んでいく。

だから、ワークライフバランスとはよく言ったもんだと思うけれど、大事だと思うのはとにかくバランス。仕事は頑張りすぎない。そしてまずは「生活」に軸を置く。「働く」エネルギーの源は「生活」にあるのだから…。

私は日本ではオフィス構築の会社に勤めてました。だから「働く」「どう働くのか」という事については、色々勉強しました。そして働くことと生活は密接に関わっている。だから働く人が幸せに働ければ、世の中全体の幸せに貢献できると思っていました。

しかし私自身は結婚を期に仕事を辞め、新しい環境に順応しようともがき、更に家族の病気に向き合ったことで「生活」というところに意識が向かうようになった。

なので今は「働く」の部分だけを切り取ってこねくり回しても、実は課題の根本は変わらないのかな…と思うようになりました。もっと社会の構造全体のことに目を向ける。だんだん世の中の流れはそちらに向かっている気がします。もちろんオフィスや働き方を変えることで解決できることは沢山あります。

 

ドイツに戻って来ても、自分が変わった事に気付きました。これまではなんとか、ドイツの生活に順応しよう、社会に出なければと必死だったけれども、ドイツでも日本でも同じ、ひとまず「くう、ねる」、それができればよし。もちろんやってみたい夢はたくさんあるけれど、ひとまずはよし。そう考えると不思議と色々なことが楽しく、ありがたく感じてきて、逆に緊張せずに色んなことができるようになって来たのです。これはある種のパラダイムシフトが自分の中で起こっているのだな、と思います。

くう、ねる。できることに感謝。それを原点にすると世界が違って見えてきます。それが私が辛かった半年の中で学んだことなんだと思います。

もちろん、仕事もできない人もいる。当たり前のように食べ物を買えない人もいる。難病で苦しんでいる人もいる。その背景には色んな理由があります。…もちろん戦禍の中にいる人たちも。くう、ねるすら脅かされる人たちの辛さというのは…

日々そういうことに思いを馳せて、自分のできることを考えていくことと、自分の生活を当たり前と思わず感謝して生きたいと思います。